僕たちの時間(とき)
 素直じゃない…素直になれないだけの僕には、それを持っている皆への羨望から、それを否定し貶めることしか出来なかった。

 その所為で、“知らない”ことを理由にし、渡辺くんを…そして皆のことまでも傷付けた。

 赦して欲しいとは言えない。

 言えるハズも無い。

 でも、一度でいい、“償い”をするチャンスを与えてもらえるならば……、

「僕は……“これから”の僕で、答えを出すよ。必ず」

 自分の全てを肯定する。そう出来るようになる。

『99%の努力』と、全ての“枷”を受け入れられるように、強くなろう。

 渡辺くんがそうであるように。

 僕も誰かの“夢”になりたい。誰かの未来の糧となれる人間になりたい。

 全ては“これから”。

 ――今、この瞬間から、僕は、変わろう。


「これからは、自分の“生きる意味”を見つけるために……そのために、僕は、生きるから」


 君たちの傍で、同じ方向を見ていたい。

 君たちの中に見つけたい。

“僕”という存在の在り処を。

 ――そうすることを、どうか、許してくれる……?


「僕がピアノを弾くことを…君たちと同じ“夢”のために弾くことを、許して、くれる……?」


 ――僕が“ここ”に居てもいい“理由”を……僕に、くれる……?


 それを言い切るまで。

 僕は下げた頭を、とうとう上げることが出来なかった。

 言った後の沈黙が、下げた頭の向こうから圧し掛かってくる。

 一度は『要らない』とまで言われたクセに、ムシのいいこと言ってると自分でも解っているけど。

 それでも、僕は彼らの返事を待った。

 ――待ちたかった。

 こんな僕のことを一度は“仲間”として受け入れようとしてくれた彼らの気持ちに、ただただ縋り付いただけのこと、ではあったけど……。
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