僕たちの時間(とき)
「えっとじゃぁ、こちらと合わせて……こんな感じでどうですか?」

「はい、それでいいです」

「わかりました。お包みしますので、ちょっと待ってて下さいねー」

 カサカサと包装紙を準備し、そしてテキパキと花を包(くる)んでいく。

 そう忙しそうに手を動かしつつ、やっぱり口もよく動く。

「カスミソウがお似合いなんて、とっても可憐で可愛い方なんでしょうねー」

「え…?」

「“彼女”でしょう? プレゼントするお相手」

「えぇ、まぁ……」

「少し遅れたホワイトデーのプレゼント? それともお誕生日ですか? ――あぁ、リボンは何色になさいましょうか? カスミソウのような可愛らしいお嬢さんなら、ピンクとか…パステル系あたりの色がお似合いかしら? いかがいたします?」

「そうですね……じゃあ、こっちのピンクで」

「かしこまりました。――あ、そうそう! メッセージカードもあるんですけど、お書きになりません? 今ご用意いたしますから、どうぞ座って……」

「いや、それはいいです。書いても…読んでくれる人は、いないので……」

「え? でも……」

「その花は“命日”のプレゼントなんですよ。――僕の、“彼女”の」

「まぁあ…、そうだったんですか……! すみません、差し出がましいことを申してしまいまして……」

「いや、こちらこそ。彼女のことを褒めていただいて……嬉しかったですから。本当に」

 僕は本心からそう言った。

 実際、この店員の喋り口調は、聞き苦しい嫌なものではなかったし。

 むしろここまで喋り倒してくれると、聞いていて楽しい。

「ありがとうございましたー」

 その声に見送られ、出来上がった花束を抱えて、その店を後にする。

 これから贈るこの花束を、かすみ草の花の向こうに彼女を見てくれる…そんな人の手で作ってもらえてよかった、と……。

 僕は、青く澄んだ空を振り仰いだ。
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