僕たちの時間(とき)
 水月はつかつかと歩みよって来ると、僕を見上げて軽く睨んだ。まだ少し赤い顔で。

「約束、してくれる?」

「え……?」

「どんなことがあっても絶対聴かせてくれるって! ちゃんと約束してくれたら、もうワガママ言わない」

「約束する」

「絶対よ! メンバーみんなが証人だからね!」

 そう言って、水月は小指を立てて差し出した。

「必ず守ってよ! 私、楽しみにしてるんだから」

「わかってるよ」

 僕は少し苦笑して、水月の小指に自分の小指を絡める。

 そこで水月は初めて口許を緩めた。


 そしてにっこりと水月が笑って、

 後ろではケンとトシが、必要以上にはやしたてまくる。

 ――“はず”、だった……。


 ふいに水月の表情が硬く張りつめ、代わりに、どこか呆然としたような色が浮かんだ。

「水月……?」

 僕が呼びかけたのと、ほぼ同時だった。

 一瞬だけ苦痛の表情を見せて、水月の瞳が閉じられた。

 そして突然、僕のもとへガクンと倒れ込んだのだ。


 ――その一連の所作が何故か……僕の目には、とてもゆっくりとしたものに、映っていた……。


 異変を知り、からかおうとしていた皆も……用意していたであろう言葉を出せないままに硬直する。


 僕の周囲(まわり)の音が消えた。


 そう、これはまるでスローモーションのビデオだ。

 何もかもがハッキリと見えているのに……でも、まだ半分、現実だとは信じられない。
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