僕たちの時間(とき)
 水月を支えながら、その身体の重みに、僕はその場で膝をつく。

「水月?」

 呼んでも返事はない。その顔色は蒼白で、瞳は固く閉ざされている。

「水月…! ――おい水月!? どうしたんだよ、水月ッ!!」

 ただただ狂ったように僕は、水月の名を叫んでいた。目に映った何もかもを否定してしまいたくて、振り払うように叫んでいた。

 ――そんな僕の声で、凍りついていた皆の時間も動き出す。

「おい、救急車!」

 頭の隅で、光流がそう叫んだ声と荒々しくドアの開く音、そしてバタバタと誰かが走り去ってゆく足音を、僕は呆然と聞いていた。

 腕にのしかかる水月の重さを感じながらも、その白い顔を目の当たりにしながらも、…僕は叫ばずにはいられなかった。


「起きろよ! 目ェ開けろよ水月! 冗談だろ!? 嘘だって言えよ、水月!!」


 誰かが何かを告げる声とか、周囲の雑音、近付いてくる救急車のサイレンの音さえも、聞こえているのかいないのか、全くわからずにいた。

 目の前にいる水月のことしか、この時の僕には考えられなかった。

 どうして……!? 今まで1度だってこんな事なかったのに……!

 目を開けてくれよ! 笑ってくれよ!

(――お願いだから……!!)


 僕は“何か”から守るように、ギュッと水月を抱き締めていた。
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