僕たちの時間(とき)
「――んでッ……!!」

 声にならない声が洩れた。

 僕はそのまま振り向き、光流の襟首を締め上げる。

「何で止めたんだよ! 何で水月と一緒に行かせてくれなかったんだよ! 光流!!」

「…………」

 光流は、やめろとも放せとも言わなかった。

 ただ何もせず、僕のなすがままにされていただけだった。

 それがイラついた。

 イラついて、無抵抗の光流をガシガシ揺さぶった。

「何でだよ! 何とか言ってみたらどうなんだよ! 何か言えよ、みつ……!!」

『る』、とまでは言えなかった。

 光流はふいに顔を上げ、ギッとすごい目で僕を睨んだかと思うと、いきなり拳で僕の右頬をぶん殴ったのだ。

 左利きである光流が左手で殴った……これは光流が本気であるのに違いなかった。

 ギター弾きが利き手で殴るなんていう、ギターが弾けなくなるかもしれないような真似を、あろうことかこの光流がするなんて……!

 つきあいの長い僕でも、初めて遭遇した出来事だった。

 その本気のパンチをくらって、ぶっとんで激しく地面に叩きつけられて。

 それでも僕は驚きのあまり何も言えず、何も考えられず、ボーッとただ光流を見上げることしかできなかった。

「ばかやろうっ!! いいかげん、正気に戻ったらどうなんだっ!!」

 右頬がじくじくとした痛みを訴えはじめるや否や、降ってきた光流の怒鳴り声。

「いつまでカッカしてるつもりだよ、少しは落ち着けッ!!」

「光流……」

「一緒に行って何するんだよ!? おまえみたいに頭に血ィ上らせたバカが付いて行ったところで、迷惑にこそなっても、何の解決にもなりゃしねーんだよ! ただわめくだけしかできない奴が、何をどーにかできるってんだ! ――そりゃあ、おまえの彼女のことだ、心配するなって方が無理だってことくらい、解ってる。けど、わめく以外にも心配する方法はあるだろう? 付いて行くほかにも、おまえにできることはあるだろうが!?」

「…………」
< 35 / 281 >

この作品をシェア

pagetop