僕たちの時間(とき)




 光流のおかげでどうにか冷静を取り戻した僕は、それから藤沢家に連絡を入れ、水月の母親に事情を説明するとすぐ、光流と共に病院へと向かった。

 けれど、アシが無かった僕らは思わぬほど時間がかかってしまい、到着したのはもう太陽が西に傾き始めた夕方だった。

 病院の入口で待っていたケンとトシの案内で、水月の居る病室まで走った。

“病院では静かに!”なんて、知ったことじゃなかった。

 たとえ注意されたとしても走ることを止(や)めなかっただろう。

 それくらい逼迫した気持ちだった。

 水月に近付いていくにつれて、差し迫ってくるようなこの気持ち……不安で不安でいたたまれないくらいだ。気が逸る。

 階段を駆け上がり、そして2階、207号室の前で話している、若い医者と水月の母親の姿を見つけた。

 2人は、近づいてくる足音に気付いたのか、そろってこちらを振り返る。

「渡辺くん……!」

「水月は!? 水月はどうなったんですかっ!?」

 駆け寄るなり、そう勢い込んで、僕は尋ねた。

「大丈夫だよ」

 それに答えたのは水月の母親ではなく、隣の医者の方だった。

「軽い貧血だね。風邪気味らしかった上に少々疲労も重なっていたようだから。一応、検査のために2~3日は入院してもらうことになるだろうけど、それだけだよ」

「――そう、ですか……」

 医者の笑みに、僕は少しだけホッとした。

「今、水月は……?」

「眠ってるよ。今日はもう目を覚まさないだろうから、君達はもう帰りなさい。今は安静が一番だ」

「でも……」

「渡辺くん、早く知らせてくれてありがとう。助かったわ。水月が良くなったら、ちゃんと連絡入れさせるわね」

「――はい……」

 水月の寝顔だけでも……一目でいいから無事なのを確かめたかったけど……。

 2人からこうも言われては、引き下がるしかなかった。

 ここで僕が出来ることはないのだ。何も……。

 僕達4人は、そのまま病院を後にした。
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