僕たちの時間(とき)
「大したことなさそうで、よかったな」

 光流のその気遣わしげな言葉に「あぁ」とは答えたものの、僕はなぜか素直に安心することができなかった。

 振り返り、もうすっかり黄昏の闇に覆い包まれている建物を眺めやる。

 この“病院”という場所のせいだろうか? 心にかかる昏(くら)い影が、どうしても拭い去れない。


 病院(ここ)は人の“死に場所”だから……。


 それから3日間、僕は水月からの連絡をひたすら待った。

 だけど、全く何の知らせも訪れずに、ただ時間だけが過ぎてゆき。

 4日目。思い余って自分から電話をかけてみた。

 しかし受話器からは、むなしく呼び出し音が響くばかりで……。

 そうしているうちに、水月から連絡が無いままに、1週間が過ぎ去っていた。

 僕は胸の内に、日々膨らんでいく不安を抱えていた。

 かける度に誰も出ない電話が、そんな気持ちに拍車をかける。

 頭の中では様々な考えがぐちゃぐちゃにミックスされ、落ち着かない気分にさせる。

(もう限界だ……!!)

 いてもたってもいられなくなり、そして今日、僕はとうとう水月の家までやって来てしまったのだ。

 連絡のなかった理由をどうしても知りたくて。

 どうしても自分で直接確かめたくて。

 でも本当は、信じたくないのに頭から離れない“最悪のパターン”を否定してほしい、ただそれだけだった。

 それだけ、だったのに……!


 ―――“現実”は、あっさり僕を裏切った……。
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