僕たちの時間(とき)
 207号室が見えた。

(水月に、会える……!)

 1歩ずつ近づくごとに、僕の胸も高鳴る。

「みぃ、驚くわね! 突然、聡くんがお見舞いに来たら」

「迷惑…なんてことは……」

「ないない! 喜ぶわよ、きっと! 今サラ帰るなんて言っても、遅いからねっ?」

「わかってますよ」

 扉の前に着き、僕は軽く深呼吸をする。

 ノックをするため、満月さんが拳を上げた。

 ――その時。


 ガッシャ―――ン!!


 中で何かの割れる音が聞こえて、ドアを叩こうとしていた満月さんは、ビクッと手を引っ込めた。

 同時に僕達は顔を見合わせる。

「今の、何が……」

「こういう時って……中に入るべき、なのかしら……?」

 今度はドアノブに、満月さんはそろそろと手を伸ばしていく。


『何てこと言うの、水月!!』


 手は、ノブ手前でピクッと止まった。

「母さんの声…? 信じられない……!」

 僕も信じられなかった。僕の知る限りでは、いつも温和で優しそうなおばさんで……。

「こんなヒステリックに叫ぶ人じゃないのに……」

 満月さんの呟きに、僕も無言で同意する。

「みぃが何かした…なんて、それこそ信じられないし……何があったのかしら……?」

 言いながら満月さんは、耳をピトッとドアにつけた。

「まっ、満月さ……」

「シッ! 中で何か言ってんのよ」

「え…?」

 どうやら、立ち聞きに徹することになったらしい。

 良心に責められつつも、僕も同じようにドアにはりつき、中の会話に耳をすませる。
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