僕たちの時間(とき)
『お母さんらしくないわ。もう少し落ち着いたら?』


(水月の声……!)

 久し振りだけど……ドア越しでも、こんなにハッキリとわかる。


『そうね……ごめんなさい、声を上げたりして……。――あぁ、花瓶を落としちゃったじゃないの。あなたが妙なこと言うから……』

『「妙なこと」じゃなくて、「本当のこと」…でしょう?』

『水月っ……!!』

『ほら動揺してる。やっぱり本当なのね』

『あなた…、自分が何を言っているのか……』

『解ってるわ、ちゃんと。認めていないのはお母さんの方でしょう? ――私が……あと少しの命、だってこと……』


(え……?)

 僕の横で、満月さんがピクッと体を震わせたのがわかった。

(どういうこと…なんだ……?)

 何か嫌な予感がする。

 不安で不安で……たまらなくて……。


『やめなさい水月! そんなこと、あるはずがないでしょう!?』

『私の病気(こと)を、私が知る権利はあるはずよ。そういうことは、いつまでも隠し通せるものじゃないでしょう? 第一、本人が「知ってる」って言ってるのに』

『そんなのは……!』

『当てずっぽうで言ってるんじゃないの、それは嘘じゃないから。だって私、聞いてたのよ。お母さんと医者(せんせい)の話……』

『そんな……何を……!』

『お父さんまで来るなんておかしいな、って。そう思ってついて行ったら案の定よね。私の病気……』

『やめなさい、水月!!』


『私の病気、ガン…だったんじゃない……』
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