僕たちの時間(とき)
「――知りたい? そんなに……」


 窓の外を眺めながら、水月はポソッと無表情に呟いた。

 ほんの小さな呟きだったけど、僕には何よりも大きく聞こえた。

 ビクッと一瞬身体を強張らせ、それからノロノロと重い頭を持ち上げる。

 水月がゆっくりとこちらを向いた。

 その視線が、僕の瞳を貫く。

 複雑な想いで、僕はそれを受け止めた。

(知りたい…! ――でも、知りたくない……)

 そんな交錯する感情を見透かすかのように、水月の瞳は真っ直ぐだった。

 何の迷いのカケラも見当たらなかった。

 水月のこんな瞳を、僕は今まで見たことがあっただろうか。

 凛と澄み切った水面(みなも)の如く、静かに何かをたたえているような……、

(こんな瞳の色……これは……)

 脳裏にフッと何かが過(よぎ)った。

 何かに思い当たった。何かに気付いた。そんな気がした。

 でも、それだけだった。

 今の僕には、“思考”というものが欠如していたから……“何か”という、そんな不確かな小さなものにとらわれ、答を探しつきとめようとすることなど、出来ようはずがなかったのだ。

 もう水月の言葉だけが、この時の僕の全てとなっていたに違いない。

 やっとの想いで、僕は言った。


「知りたい……水月のことなら、どんなことでも……」


(そうだ、まずは“現実”を知ることから、始めなくては……)

 水月の言葉で聞くことなら、きっと何だって信じられるから……!

 しかし、そんな決意とは裏腹に、僕は心の底から願っていた。

 水月が、普段の水月らしい笑顔をくれること。

「さっきのは冗談よ」と、何事もなかったように、明るく言ってくれること。

 ――そんな、実に都合のいい願望を。
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