僕たちの時間(とき)
「『どんなことでも』…? ――笑わせないで欲しいわ! 私は、知ってなんかもらいたくなかったっていうのに……」

 だが、冷たく吐き捨てるように水月は言った。

 その瞬間、僕の内の小さな願望は無残にも打ち砕かれた。

「知って欲しくはなかったのよ……聡くんにだけは……」

 僕はもう、水月のことがわからなかった。

 水月が何を考え、どんな想いでいるのか……今の水月はわからない、想像もつかない。

 僕には、もう……。

「どうして……?」

 訊くことだけで、精一杯だった。

 静かに、水月は答える。

「聡くん、後悔するわ」

「後…悔……?」


 言葉がナイフとなって、僕の胸を抉った。

 胸の奥深くにしまい込んで、忘れようとしても忘れられずにいた、――僕の“後悔”。

“封印”が破れる…! ――なぜ今になって……!


「知らなかった方がよかったって……絶対に思うわ……」


 その言葉でハッと我に返る。

「なん…で……」

「『なんで』…? ――そんなの私に聞かないでよ! 聡くん自身がよく解ってるはずじゃないの? これは全部“現実(ほんとう)のこと”なんだから……!」

「え……?」

 何もわからずにいる僕を見つめ直し、水月はなぜか自嘲気味に微笑んだ。

 そして言う。

「それでも、知りたいの……?」
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