僕たちの時間(とき)
 ドクッ…! ――心臓が鳴いた。


 何だろう、今の言葉……突き放されたような……何となく、そんな感じだった……。

 気を取り直すように、軽く左右に頭を振る。

「オレ…、おまえの言ってること、よく解んないけど……」

 小さな動揺を気付かれたくなくて。

 それを押し隠して、僕は告げる。

「だけど、水月のことだったらどんなことでも知りたいって思う。それは絶対に嘘じゃない。うまく言えないけど……オレはおまえと一緒にいたいし、おまえの支えにだってなりたいと、そう思ってるから……だから……、―――“後悔”なんてっ…! 絶対に、しないッ……!!」

 ―――最後の言葉は……もう、絞り出したかのような声、だった……。

 水月はそんな僕の言葉を、顔色も変えず、うつむき、ただ黙って聞いていた。

 何の感情も読み取れなかった。

 ただ1つ、組んだまま小さく震えている手を除いて……。

 ふいにそれが組み直された。

 握った拳にギュッと力が入り、同時にバッと顔を上げると、真っ直ぐに僕を見据える。

 その瞳に、先ほどと同じ色を浮かべて。

 水月は、つかえたものを吐き出すかのように、一息でまくしたてた。

 とても苦し気な表情をしていた。


「じゃあ教えてあげる! 聡くんが聞いたこと、考えてること、全部事実(ほんとう)なんだから!!」


 僕の頭は瞬時にして真っ白になった。

 その言葉は、打ち砕かれた願望に更なる追い討ちをかけ、まだ心に残っていたカケラを粉々にまで崩し去った。

 そうしてなお、静かな声で水月は続ける。

 ――それはまるで最期(おわり)を告げるような声だったと……僕にはそう思われた。

 事実それは、僕を奈落へと突き落とすのに充分な重さを、持っていたのだから……。


「私、肺ガンなの。――あと半年ほどしか、生きられないそうよ」
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