僕たちの時間(とき)
 願いも空しく……母は満月のその不安を、そのままの形で、言葉に紡いだ。


「ここまでもっていたのが不思議なくらいなのよ、もうガン細胞の転移が広がってしまっていて……!

 ――もう、手遅れなの……!

 水月の症状は、初期どころか、既に末期に近いくらいなのよ……!!」


(――――!?)


 的中してしまった……一番、聞きたくなかった予感が……。

 やはりガン細胞は、この長い時間をかけて、確実に水月を蝕み続けていたのだ。

 もう満月は、立っていることで精一杯だった。

『何を聞いても驚かない』。――そんなセリフが裸足で逃げ出してしまうほどの驚愕を覚えていた。

 しかし、母の言葉はまだ続いている。


「手を尽くせば延命はできるって、医者(せんせい)はそう仰って下さるけど……それでも水月の生命は、あと半年ほどしかないのよ……!」


「何…ですって……?」


 満月の手から、紙コップが音もなく滑り落ちた―――。
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