僕たちの時間(とき)




「嘘だ……」

 水月の話を全て聞き終え、僕は力なく呟いた。

「嘘なんかじゃないわ。私、ちゃんと最初から聞いていたんだもの、れっきとした事実よ」

 青ざめる僕とは対照的に、水月は淡々としたものだった。

 口許に、うっすら笑みさえも浮かべるほどに。

(信じらんねーよ……)

 拳を握りしめながら、僕は歯を食い縛った。

 そうしていないと涙がこぼれてきそうだったのだ。

(信じられるかよ、そんなこと! 水月が、あと半年しか生きられないなんて……手術しても無駄だなんて……! どうしてそんなこと、信じられるかっていうんだよ!!)

「まぁ、なっちゃったものは仕方が無いわよね。昔から身体が弱かったことも事実だし。でもそれにしたって、嫌な病気(モノ)に当たっちゃったものだわぁ」

 悲愴な表情になっているだろう僕など気にも留めず、ケラケラと水月は笑いながらそう言う。

 ――何となく…、そんな水月がとても哀しく、僕には思えた。

 それと同時に腹も立った。

 けれど怒りの感情の方が強かった。その憤りが行き場もなく僕の中を渦巻く。

「ホントに私ったら、運が良いのか悪いのか……」

「――やめろよ……」

「え……?」

 明るく振る舞う水月は、見ていてとても哀しかった。

 それがとても腹立たしい。

「もぉ、やめろよ!」

 気持ちが堰を切ったように溢れ出す。

 言葉を1度口にしてしまったら、もう堪え切れなかった。

 激情にかられるままに言っていた。

「どうしてそんなカオしてるんだよ……!」

「聡くん……?」

「どうして笑っていられるんだよ!」

「何、言って……」

「自分のことなのにっ…、どうしてそう平然としていられるんだよ!!」

「――――!?」

 そこで水月が息を呑んだのがわかった。

 でも、僕は自分を止められなかった。

「何とも思わないのか…? 悲しいとか、思ったりしてないのかよっ!!」


「――悲しいに決まってるじゃない……!!」
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