僕たちの時間(とき)
「聡くん、私に同情してるだけなのよ」

「そんなことっ……」

「違うはずないじゃない! “可哀相”だと…ただ憐れんでいるだけなのよ。もうすぐ死ぬ人間を、目の前にしているんですもの……」

「『死ぬ』なんて簡単に言うなよ! おまえはまだ生きてるだろ!?」

「でも“事実”なのよ! これが“現実”なの!!」

 その水月の迫力に気圧(けお)され、僕は言葉に詰まって絶句した。

 それでもなお、水月は続ける。


「同情なんてしてませんって人が、どうして事実を受け止めようともしていないの!?」


「――――!?」


 何も言い返せなかった……。

 そう言われてはじめて、僕は気が付いたのだ。水月の言葉通りだということに……。

「絶対後悔するって、言ったじゃない……!」

 水月はまた“あの瞳”で、真っ直ぐに僕を見つめた。

「知りたくなかった、聞かなければよかったって、後悔してる! だから、そんなのは嘘だ、信じたくないって、現実を見ようとしてないのよ! ――だけど…! それを知りたがったのは聡くんの方じゃないの!! その聡くんがどうして現実(ほんとう)のことに目をつぶっているのよ!!」

 水月はしっかり僕を見つめていた。

 しかし僕は、水月のそんな視線が痛かった。耐えられなかった。

 だから……水月を見つめ返すことさえ、できなかった……。

 全て水月の言葉、そのままで……。

 そんな臆病な自分に気がつかなかった…どころか、すんなりと受け入れてしまっていた自分が、とても腹立たしく、同時にとても恥ずかしく、居た堪れない気持ちになった。

「もっと早くに話すべきだったのかもしれない……でも、怖かった……抱えてる今までの思い出が幸せすぎて、辛かった……! だからッ…!! ――どうしても……連絡できずに、いたの……」

「水月……」

「お願い…! もうこれ以上、私を辛くさせないで欲しいの……!!」


 この時……僕には、言葉と一緒にあらわれた水月の“心”の断片に、触れたように感じられた。

 哀しみに満ちた“心”に……。
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