僕たちの時間(とき)
(あぁ、そうか……)

 やっとわかった。“あの瞳”の語る意味……。

 あんな瞳の色……それは、あきらめ。絶望。…深い、悲しみの色。

 悲しい心が映し出す、

 深い深い、哀しみの色……。


(水月……)

 それをみとめた僕は、無意識の内に立ち上がっていた。

 だけど水月は、そんな僕を見ようともしなかった。

 声をかけてもくれなかった。

 ただじっと、窓の外だけを見つめていた。

 部屋を出る前に僕は、ふとドアのところで立ち止まり……最後に1つだけ、水月に問いを投げかける。


「今までと同じの幸せにはなれなくても……今までと違う幸せでもいいから、これからも一緒に幸せでいることは……もう、できないのかな……?」


「――――!」

 水月の肩が、ピクッと、一瞬だけ震えたように見えた。

 でも、それだけだった。

 先刻と同じ、水月は窓の外を見つめたままで。

 何も言わなければ、こちらを振り返ろうともしなかった。

 その様子は、僕がここにいることすら拒絶しているかのように思えて……。

(それが水月の“答え”なのか……!)

 そして僕は病室から走り去った。まるでその場から逃げるように。


 水月の面影を、振り切るように……。
< 63 / 281 >

この作品をシェア

pagetop