僕たちの時間(とき)
*
走っても走っても、白い空間だった。
白い壁に囲まれた、冷たい空間(せかい)。
やはり病院(ここ)は“あのこと”を思い出させる。
(来るべきじゃなかったんだ……!)
ここはいつも、大切な人をのみ込んでゆく…―――。
僕は、人気のない救急用出入口から外に出た。
外に出ても、そのまま走り続けた。ここから早く立ち去りたかった。
「――聡!」
耳慣れた声に呼び止められて、ぐっと腕を掴まれる。
振り返ると光流がいた。駐輪場に自転車を止めてきた直後らしく、手にはまだキーを握っている。
「どうしたんだよ、血相変えて。おまえが来てるって聞いたもんだから、ついでに俺も藤沢の見舞いに来たんだけど……」
言いながら、僕のただならぬ様子に気付いたのだろう。
光流は言った。
「何か、あったのか?」
「み…つる……」
――もう、限界だった。
光流に縋りついて僕は、思い付くままぶちまけていた。
「こんなところに来なければよかったんだ! どうしてだよ! どうしてここは、オレにこんな思いをさせるんだ! どうして“あのこと”を思い出させるんだ!」
「おい、聡……」
「もうオレは“これ以上”、“大事なもの”を失いたくはない”のに―――!!」
「――――!?」
「あんな思いはもうまっぴらだ! どうしてこの場所はオレから大事な人を奪ってゆくんだ! オレが何をしたっていうんだ! 冗談じゃねーよ、チクショーッッ!!」
「聡……」
僕はその場に座り込んでいた。涙があふれてくる目を押さえもせずに、歯を食い縛り、ひたすらコンクリートの地面を拳で叩き続けていた。
そんな僕を止めることなく、光流はただ黙って、傍らに立ち尽くしているだけだった―――。
走っても走っても、白い空間だった。
白い壁に囲まれた、冷たい空間(せかい)。
やはり病院(ここ)は“あのこと”を思い出させる。
(来るべきじゃなかったんだ……!)
ここはいつも、大切な人をのみ込んでゆく…―――。
僕は、人気のない救急用出入口から外に出た。
外に出ても、そのまま走り続けた。ここから早く立ち去りたかった。
「――聡!」
耳慣れた声に呼び止められて、ぐっと腕を掴まれる。
振り返ると光流がいた。駐輪場に自転車を止めてきた直後らしく、手にはまだキーを握っている。
「どうしたんだよ、血相変えて。おまえが来てるって聞いたもんだから、ついでに俺も藤沢の見舞いに来たんだけど……」
言いながら、僕のただならぬ様子に気付いたのだろう。
光流は言った。
「何か、あったのか?」
「み…つる……」
――もう、限界だった。
光流に縋りついて僕は、思い付くままぶちまけていた。
「こんなところに来なければよかったんだ! どうしてだよ! どうしてここは、オレにこんな思いをさせるんだ! どうして“あのこと”を思い出させるんだ!」
「おい、聡……」
「もうオレは“これ以上”、“大事なもの”を失いたくはない”のに―――!!」
「――――!?」
「あんな思いはもうまっぴらだ! どうしてこの場所はオレから大事な人を奪ってゆくんだ! オレが何をしたっていうんだ! 冗談じゃねーよ、チクショーッッ!!」
「聡……」
僕はその場に座り込んでいた。涙があふれてくる目を押さえもせずに、歯を食い縛り、ひたすらコンクリートの地面を拳で叩き続けていた。
そんな僕を止めることなく、光流はただ黙って、傍らに立ち尽くしているだけだった―――。