僕たちの時間(とき)

6.RECOLLECTION ――追憶

 行くアテも無いままに歩いていた。

 いつの間にかにぎやかな通りに出ていて、僕は人波に流されるように、ただフラフラと進んでいた。

 人の声や足音、自動車のクラクション、…様々な音が飛び交い、薄暗くなってきた辺りには、ポツリポツリと、ネオンが眩しく灯り始めていた。

 しかし僕には、そんな音も、光も、何も感じられなかった。

 僕の目には、ただ暗闇が映っているだけだった。


 忘れられない……忘れられるはずもない……!

 ――“あの日”の、出来事。

 そう、あそこは病院だった。

 白い壁に囲まれた、薄暗く、そして少々肌寒くさえ感じられた、あまりにも四角いだけの部屋で。

 白い布に覆われ、あいつは眠っていた。

 安らかな、永遠(とわ)の眠りを……―――。
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