僕たちの時間(とき)




 光流は、去ってゆく聡を黙って見送った。

 引き止めなかった。

 ただ見つめていただけだった。その背中を……。

 それが見えなくなっても、光流はその場から動こうとしなかった。

 聡の消えた方を見据えたまま立ち尽くし、何か思いを巡らせているかのようだった。

 そんな時、自分を呼ぶ声がし、光流は我に返った。

 彼の名を呼び、そして駆け寄ってきたのは、満月だった。

「光流! 聡くん、来なかった!?」

 だが光流は、満月のその問いに答えず、逆に満月へと問いかける。

「なぁ…? 藤沢の病気って、命に関わるほどのものなのか……?」

「―――…っ!?」

 満月の表情が変わった。

 しかし光流は、何事もなかったかのように、淡々と続ける。

「聡なら来た。…けど、もう行っちまったよ。どっかに」

「聡くんから聞いたの……?」

「いや、何も」

「なら、どうしてっ……!」

「聡が言ったからな。――『もうオレはこれ以上、大事なものを失いたくはないのに』って、さ……」

「光流……?」

 言い終えて光流は、遠くを見つめるような瞳をした。

 満月はもう、光流を問い質すことはしなかった。

 ただじっと次の言葉を待った。

「あいつは……聡は……」

 振り返って満月を見つめ、静かに淡々と、光流は言った。


「大切な妹を、亡くしたことがあるんだ……」
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