僕たちの時間(とき)
*
光流は、去ってゆく聡を黙って見送った。
引き止めなかった。
ただ見つめていただけだった。その背中を……。
それが見えなくなっても、光流はその場から動こうとしなかった。
聡の消えた方を見据えたまま立ち尽くし、何か思いを巡らせているかのようだった。
そんな時、自分を呼ぶ声がし、光流は我に返った。
彼の名を呼び、そして駆け寄ってきたのは、満月だった。
「光流! 聡くん、来なかった!?」
だが光流は、満月のその問いに答えず、逆に満月へと問いかける。
「なぁ…? 藤沢の病気って、命に関わるほどのものなのか……?」
「―――…っ!?」
満月の表情が変わった。
しかし光流は、何事もなかったかのように、淡々と続ける。
「聡なら来た。…けど、もう行っちまったよ。どっかに」
「聡くんから聞いたの……?」
「いや、何も」
「なら、どうしてっ……!」
「聡が言ったからな。――『もうオレはこれ以上、大事なものを失いたくはないのに』って、さ……」
「光流……?」
言い終えて光流は、遠くを見つめるような瞳をした。
満月はもう、光流を問い質すことはしなかった。
ただじっと次の言葉を待った。
「あいつは……聡は……」
振り返って満月を見つめ、静かに淡々と、光流は言った。
「大切な妹を、亡くしたことがあるんだ……」
光流は、去ってゆく聡を黙って見送った。
引き止めなかった。
ただ見つめていただけだった。その背中を……。
それが見えなくなっても、光流はその場から動こうとしなかった。
聡の消えた方を見据えたまま立ち尽くし、何か思いを巡らせているかのようだった。
そんな時、自分を呼ぶ声がし、光流は我に返った。
彼の名を呼び、そして駆け寄ってきたのは、満月だった。
「光流! 聡くん、来なかった!?」
だが光流は、満月のその問いに答えず、逆に満月へと問いかける。
「なぁ…? 藤沢の病気って、命に関わるほどのものなのか……?」
「―――…っ!?」
満月の表情が変わった。
しかし光流は、何事もなかったかのように、淡々と続ける。
「聡なら来た。…けど、もう行っちまったよ。どっかに」
「聡くんから聞いたの……?」
「いや、何も」
「なら、どうしてっ……!」
「聡が言ったからな。――『もうオレはこれ以上、大事なものを失いたくはないのに』って、さ……」
「光流……?」
言い終えて光流は、遠くを見つめるような瞳をした。
満月はもう、光流を問い質すことはしなかった。
ただじっと次の言葉を待った。
「あいつは……聡は……」
振り返って満月を見つめ、静かに淡々と、光流は言った。
「大切な妹を、亡くしたことがあるんだ……」