僕たちの時間(とき)




 僕には、7つ年の離れた『明(あかり)』という名の妹がいた。

 明は、僕にとって大事な存在だった。

 昔から、ウチは両親が共働きで忙しかった為、明の面倒を見るのは僕の役目であり。

 帰宅の遅くなる母親の代わりに、保育園に迎えに行くのも僕だったし、夕食を作って食べさせるのも僕だった。

 明のために、僕はいつだって“しっかりしたお兄ちゃん”でいなければならなかった。

 明にとっての僕は、“兄”であると同時に“母親”でもあったから……。

 明は、僕を頼り切っていた。

 僕に懐く明を大切に…愛しいと思うようになったのは、一体いつのことだったろう。

 始めは、纏わりついてくる明が、すごくうっとうしくて仕方無かった。

 母親の仕事復帰のせいで、小学4年生にして妹の世話を余儀なくされた時、僕は大いに不満だった。

 小学生ともなれば、友人とのつきあいもある。

 一番友達と遊びたい時期だ。

 どうして自分だけ妹の面倒なんか…と、明に当たったこともしばしばだった。

 しかし明は。僕がどんなに冷たくしても、どんなに怒鳴っても、僕から離れようとはしなかった。

 泣きながらも、僕に縋りついてきた。

 そして解ったのだ。

 ――明は淋しいのだと……。

 甘えたくても、母親はたまにしかいない。

 だから僕しかいなかったのだ。

 明には僕が全てだったのだ。

 明だって一番母親に甘えたい時期だ。

 決して自分だけじゃないのに。それを、僕は……!
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