僕たちの時間(とき)
 後から聞いたことだが……。

 父が僕を迎えに来たのは、明がまだ生きているうちに会わせたかったからだそうだ。

 もう助からないと医者から告げられた時に、ようやく浮かんだのが僕の顔だったという。

 僕を明の“最期”に立ち会わせてあげなくては…と、やっと気付いて迎えに来てくれたのだった。

 でも、僕らは間に合わなかった。

 母親の見守る中、明は意識不明のまま目覚めることなく、静かに息を引き取ったという。

 僕と父が病院に到着したのは、それからすぐ後のことだった。

 すぐ知らせに来てくれなかった両親を責めることはできない。

 彼らが冷静でいられたはずはないのだ。

 それでも間際で僕のことを思い出してくれた。

 責めることは、できない。

 ただ、間に合わなかったというだけだ。


 ――僕は…、間に合わなかったのだ……。


 明をつねったその手に、何かが落ちた。

 それから2つ、3つと落ちて、僕の手を濡らした。

 涙だった。

 そこではじめて、僕は自分が泣いているということに気がついた。

 そしてようやっと今、自分が明の“死”を認めた、ということにも……―――。
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