僕たちの時間(とき)
「いつかオレに明と同じくらい…――いや、それ以上に大事な人ができたら、さ……」


 ―――モウ、コンナノハ、ヤダ、ヨ……!


 膝を抱え顔を突っ伏して、聡は言った。

 やっと聞き取れるくらいの、とても小さな呟きだった。

「聡……泣いていいよ……」

 その丸めた背中に、光流は自分の背中を合わせる。

 そして告げた。

「俺、見てねーから。俺は聡が泣いたなんて知らない。――誰も、見てないよ……」

「…………」


 きっと聡は泣けなかったのだ。

 両親の前では感情を出せなかったのだ。

 どこまでも聡は、優しくてお人好しだから……自分が感情を出すことが、両親を更に哀しませ、責めてしまうとでも思っていたのだろう。

 ずっとずっと我慢して、隠していたに違いない。

 自分を責め続けて……。


「泣きたい時くらい、素直に泣いていいんだぞ……」

 背中から細かい震えが伝わってきた。そして、しゃくり上げる声が続いた。

 聡は声を押しころして泣いた。

 しばらくそのまま泣き続けた。

 その間、同じ姿勢のままで、光流はじっとその場を動かずにいた。

 ――捨て置かれたようにそこにある“一等賞”のインク文字のにじんだ、赤いリボンを見つめながら……。
< 75 / 281 >

この作品をシェア

pagetop