僕たちの時間(とき)
「よぉ、サトシじゃねーか」

 入口を抜け、地下へと下る階段の途中で。下の方からそんな声をかけられた。

 その声の主はドアマンをしていた男性だった。いかにも“ロックやってます”といった感じの服装に、長身で筋肉質のがっしりとした体躯。

「タケさん……」

 彼は《ポジティヴ》というバリバリのハードロックなグループのドラマーで、通称『タケシ』。たしか今22歳。

 僕と同様《アムネジア》のアルバイターだから顔なじみで、互いにタメ口をきける仲だった。

「久し振りだな。今日、入ってたのか?」

「いや、そうじゃないんだけど……おやじさん、は?」

「中で“マスター”やってるぜ」

 タケさんは、親指でクイッとドアを指差して言った。

 おやじさんはしょっちゅう、中のカウンターにいてはバーテンをやっている。

 それがおやじさんの“楽しみ”であると知っている僕は、「やっぱり」と軽く肩をすくめた。

「入ってもいいかな? タケさん」

「チケットは?」

「もちろん、コレ」

 僕は自分の顔を指で示して「顔パスっ!」、…にーっと笑って、それを言う。

「入れてくれるよね? オレとタケさんの仲じゃん、カタいこと言わないでさっ!」

「…ったく、しゃーねーなっ! ちゃんとおやっさんに言っとけよっ!?」

「わかってますって」
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