僕たちの時間(とき)
「しかしおまえ、“いい時”に来たよな。ひょっとして狙って来たのか?」

「は? 何……?」

「何だ、知らないのか。今、中で演奏してんの、《B=HEARTS(ビィ・ハーツ)》だぜ」

「えッ!? マジで!?」

《B・ハーツ》とは、今《アムネジア》で1番人気のグループだ。

 実力派であり、完成度の高い音(サウンド)がその人気のワケを物語っているようだ。

 近々プロデビューするという噂もある。

「ホント、いいタイミングで来たもんだ……」

 驚きで、思わず呟く。

 僕はその名前を聞いてはいても、実際に聴いたことは数えるほどもなかった。

 ――が、初めて聴いた時の衝撃は、忘れていない。

 あんなにも強く印象を残す音楽(おと)を、忘れられるはずがない。

「客の入りも格別だぜ。さすがだな」

「うん、だろうね。…って、タケさんは入んないの? せっかくのチャンスじゃん」

「ばーか! 最初だけ聴きゃ、ノックアウトされるには充分だ。実力の差ってのを思い知らされて、落ち着いて聴いてらんねーよ」

「へぇ。意外にナイーヴだったんだねー?」

「ほざいてろ! おまえだって、中に入ったらそうなるんだからな!」

「さぁ、どうだか……」

 僕はそして、軽くドアに手をかける。

「音楽に耳を傾ける余裕が、あったらいいんだけどね……」

 そこで不思議そうな表情を向けてきたタケさんに軽く微笑みを返して。

 僕は、ドアを押し開いた。
< 80 / 281 >

この作品をシェア

pagetop