僕たちの時間(とき)
「おやじさん、ヒマそーだね」

「あぁ。客はステージに釘付けだからなぁ」

「《B・ハーツ》かぁ……」

 僕も、カウンターからステージを眺めた。

 女性ヴォーカルの高く透明な声が、まず耳に響く。

 その声を支えるバックも、だが決してそれに負けてはいなく、かといって声に勝るほど出過ぎてもいない。

 個々の音がそれぞれで自分を主張しながらも、むしろそれゆえに調和が保たれているようにすら思われるほど、音(サウンド)においても演奏する気持ちにおいても、完成された“和(ハーモニー)”。

「ホント、いい音出すよなぁ……」

「俺が見つけてきたんだから当然だ! ――確かに、あいつら個人個人の技術(テク)はプロ並みだし、息も合ってる。バンドとしての完成度も高いし、曲作りのセンスもある。でも、それだけじゃぁない」

「…て、ゆーと?」

「声だよ、ヴォーカルさ。バンドの善し悪しってのは、ほとんどヴォーカルで決まると、俺は思ってるからな」

《B・ハーツ》のヴォーカルは『はるか』という女声ヴォーカリストだ。

 ハタチ過ぎの男性3人の中の紅一点で、彼女1人だけまだ高校生らしい。

 気の強そうなハッキリした顔の美人で、髪はショートカット、見るからにボーイッシュな性格をしていそうなカンジ。

「はるかの声はインパクトがある。おまけに、どんな曲のイメージにも合う声を出せる…と言うよりは、曲のイメージを自分の声のイメージの方に引き寄せてしまうと、そう言った方が正しいか。その資質といい、声質といい、驚嘆に値するよ。天賦の才だけは努力したって得られないものだからな。――とにかくヤツの唄は、聴いたらまず耳に残る」

「確かに……あそこまで唄える人間なんて、プロでもそうはいないだろうね……」

 そう言って、僕はグラスを一気に呷る。
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