僕たちの時間(とき)




 いつの間にか眠ってしまったらしい……。

 顔にヒヤッとした感触を感じ、僕は目を覚ました。

 頭がズキズキする……吐くほどではないが、気持ちも悪い……。

 思わず頭に手をやると、指先に何かが触れた。それは冷たく冷やしたタオルで、どうやら誰かが僕の額にのせてくれたもののようだった。

「あ、気がついた?」

 起き上がった横で耳慣れない声がし、僕はそちらを振り返…――ろうとしたと同時に、

「ハイ、お水」と、冷水を満たしたグラスを眼前に差し出された。

 そこで喉が渇きを訴えていることに気づき、僕は差し出されたグラスを受け取ると、そのままグラスの中の水を一気に喉へ流し込んだ。

 グラスをカラにして一息つき、そこで改めてハッとして振り返った。

 ――僕の横にいて、この水を差し出してくれたのは誰……?

 微笑みながらそんな僕を眺めていたのは、《B・ハーツ》の『はるか』だった。

 さっきステージで唄っていた、そのままの姿の。

 まだ半分ボケていたせいでもあり、ひどく驚いたせいでもあり……僕は声も出せずに、じっとその『はるか』を見つめてしまった。

(夢、かな…? こんなとこに『はるか』がいるなんて……)

“こんなとこ”と、思ってから気付く。

 今、自分はどこにいるのだろう?

 ――確かカウンターで飲んでいたはずなのに、今自分が座り込んでいるのは柔らかいソファ。

 辺りを見回してみると、そこは応接間のようだった。

 確か事務室のはしに、こんなスペースがつながっていたっけ…と、思い出す。

 そのカウチに僕は寝かされていたらしい。
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