僕たちの時間(とき)
「好きなのよ、あなたが……初めて見た時から、ずっと……!」


 遥は立ち上がって、僕の首にそっと手を回した。

 あたたかな彼女の体温を感じた時、僕の腕は自然に彼女を抱きしめる。


 ――きっと僕はぬくもりを求めていたのだ。

 凍り付いた気持ちを溶かしてくれる、あたたかさが欲しかった。

 それを遥が与えてくれると、そう思ったから……。


 僕の手から離れてゆく、手の届かないものを追うのと。

 手を伸ばせば届くやすらぎを求めるのは。

 どちらがいい方法なのだろう……?

 僕は一体、どこに向かって手を伸ばしたら、欲しいものに届くのか……。

 そして僕は……何を求めているのだろうか……―――。


「年上の女は嫌い?」

「そんなこと、ない……」

「ホントに?」

「ああ……」

「私も年下のコって好きよ。サトシなら、ね……」

 耳にかかっていた、遥の温かい息が消えた。

 そして気付くと、彼女の顔が目の前にあり……彼女の温もりを、唇に感じた。

 そのまま遥の唇(キス)を受け入れ、僕は静かに目を閉じる。

(これでいいんだろう……水月……)
< 89 / 281 >

この作品をシェア

pagetop