僕たちの時間(とき)
 睦月は何も言わなかった。

 ――いや、言えなかった。

 満月から知らされた聡の“傷”は痛々しすぎて、何を言ったらよいのかわからないほど苦しくて……。

 そして、溢れ出る涙を堪えるのに精一杯で……。


『お互いで自分を傷つけ合うほどに、お互いのことを想っているのに……すれ違うなんて、哀しいわね……』


(ホントにそうよ……!)

 花瓶にジャボジャボ水を入れながら、睦月は思う。

 自分のいない病室で今、水月1人、どんな気持ちでいるのだろう。

 笑顔を作る相手がいなくなって、哀しみを表情(かお)に浮かべているかしら……それとも、1人で涙を流しているのかな……。

 ドアを開けてみると、やはり水月はいつもの笑顔でベッドの上にいた。

「おかえりなさい」

(そうやって笑顔を作りながら、1人でどんどん深く傷ついてくの……?)

「どうしたの、睦月? 何ボーッとしてるの?」


『泣いてたのよ、みぃ……聡くんが帰った後、1人で……』


(泣くほど聡さんを好きだったのに……どうして……?)


『見守ってて、あげて……』


(でも、言わなきゃ気が済まないよっ……!!)


「――睦月ってば! 何…? 私の顔に、何かついてる?」

「――ついて、るっ……!」

「えーっ? 目・口・鼻って言ったら、怒るわよぉ?」

 睦月は無言で、首をブンブンと横に振る。

「にこにこ笑った“仮面”が、貼っついてるっ!!」

「――――!?」

 水月の顔から笑みが消えた。
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