僕たちの時間(とき)
「睦月にはわからないっ……!」

「みぃちゃん……」

「睦月なんかにっ…! 私の気持ちなんて、わからないわよっ……!!」

「――わかるはず、ないでしょうっ……!」

 初めて水月に殴られた痛みも忘れ、睦月もつられたように叫び返す。

「みぃちゃんが何も言わないのに、わかるわけないっ!! それにあたしはみぃちゃんじゃないもの、全っ然わからないっ!!」

 荒い息を吐きながら、2人は無言で、少しの間睨み合った。

 しばし後。――その沈黙を破ったのは、水月だった。

「殴ったりして、ごめんね……」

 呟くようにそれを言うと、はらはらと涙を流す。

「でも、わかって……」

 言って水月は、睦月の腕をぐっと掴んだ。

「本当に彼を大事だと…、大切だと思ったからこそ……! 私は別の道を行かなければと思ったのよ……!」

「みぃちゃん……」

「そういうことって……きっとあるのよ……」

 そして水月は、泣き顔のままにっこりと笑う。

 だけど睦月は笑えなかった。納得することができなかった。

「イヤっ…! そんなの知らないっ……!」

「睦月……」

「そんなの知らない、認めないっ! それって絶対違う! 信じないっ! あたしそんなの、絶対、信じないっ…か、らっ……!!」

 涙が言葉に詰まって皆まで言えず、睦月は堪え切れずに水月にしがみついて泣き出した。

「あたし、はっ……みぃちゃんに、幸せでいて欲しい、からっ……!!」

「睦月……大丈夫よ。私、幸せでいるから……」

 水月は、妹をギュッと抱きしめる。

「そのためにはね……あと少しだけ“仮面”が必要なの。わかってくれるでしょう……?」

 睦月はもう何も言わなかった。

 黙って水月の腕に包まれ、泣いていた。

 泣き疲れて、眠るまで……―――。
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