僕たちの時間(とき)
「おやじさん……」

「だからこそ……“世間の荒波”ってヤツの中に、放り込んでみたくもなるんだな……」

「え……?」

 おやじさんは呟いて、手にしていた煙草を灰皿に押しつぶした。

 そして言った。

「実はな。《B・ハーツ》は以前から、遥の高校卒業を待って、俺の知り合いの会社(トコ)からデビューすることが決まってるんだ。――その“知り合い”って奴が、何かと俺んとこに相談事を持ってくる奴でなぁ、つい最近もその件について相談しに来て『“《B・ハーツ》と同じ方向性(ジャンル)の音楽でありながら、全く違ったイメージを持つバンド”なんてのが在ったら、オモシロイと思いませんか?』なんてことを言い出したんだ。もし見つけたら紹介してくれ、ともな。なんでも《B・ハーツ》と対にして売り出したら…てことを、考えついたらしい」

「――それって、まさか……!」

「おまえらはまだ高校生だし、それに今のサトシの状態を考えても不安はある。だが、俺はおまえ達がピッタリだと思ったんだ。《B・ハーツ》と全く正反対の印象を与え、それ故に比較されても押し潰されず、同等に渡り合っていける実力のあるバンドだと……プロの中で成長してゆくか、潰されてゆくか、おまえ達の演奏に賭けてみたくなった。――だから光流、リーダーであるおまえに、まず訊いておくべきだと思った。それによって返事を決める」

 そしてじっと光流を見つめ、低い声でそれを告げる。


「どうだ、光流? 《ウォーター・ムーン》のリーダーとして。デビューを考えてみる気は、ないか……?」
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