僕たちの時間(とき)
*
光流と別れた僕は、その足で遥に会いに楽屋へと向かった。
チケットを頂いたことだし、ほんの挨拶程度のつもりで顔を出したのだが……今日のライブは2つのバンドのジョイントで、もちろん《B・ハーツ》はトリをつとめる。
今、演奏しているのが前座の組だから、それが終わるまで遥は「ヒマなのー!」ということであり。
結果、「ヒマツブシの相手になってよ!」と、半ば強引に引き止められ、楽屋のドアの前での長話、となってしまっていた。
「《B・ハーツ》って名前は、私が提案して、それでついた名前なの」
話の中で、遥はこんなことを言った。
「どうしてこの名前にしたか、わかる?」
当然のごとく、僕は首を横に振る。
遥は笑顔でそれに答えた。
「《B・ハーツ》の“B”はね、“BAD”でもあるし“BEST”でもあるの。私は唄っている時、どちらの“B”にだってなれるわ。それに私だけじゃなく、女だったら誰でも、心に両方の“B”を持っている。――だからよ」
「『女だったら誰でも』……?」
「そう……女なら誰でも、愛する男(ひと)の前では“最高の女(BEST HEART)”になれる……」
言いながら、遥は軽く僕にキスをした。
そして、くりっとした瞳で僕を見上げて、付け加える。
「私も、あなたの前ではいつも“BEST”でいるつもりよ」
「遥……」
その時、遥の腕時計がピピッと鳴った。
「やだ、もう支度しなくちゃ」
「じゃあ、オレ客席で見てるから。頑張ってな」
「んっ! 頑張る!」
手を振ってから、遥は楽屋の扉の向こうに消えた。
僕は、客席へと続く廊下を歩き出す。
歩きながら……また僕は、こんな想いにとらわれる。
(本当に、これでいいのだろうか……?)
光流と別れた僕は、その足で遥に会いに楽屋へと向かった。
チケットを頂いたことだし、ほんの挨拶程度のつもりで顔を出したのだが……今日のライブは2つのバンドのジョイントで、もちろん《B・ハーツ》はトリをつとめる。
今、演奏しているのが前座の組だから、それが終わるまで遥は「ヒマなのー!」ということであり。
結果、「ヒマツブシの相手になってよ!」と、半ば強引に引き止められ、楽屋のドアの前での長話、となってしまっていた。
「《B・ハーツ》って名前は、私が提案して、それでついた名前なの」
話の中で、遥はこんなことを言った。
「どうしてこの名前にしたか、わかる?」
当然のごとく、僕は首を横に振る。
遥は笑顔でそれに答えた。
「《B・ハーツ》の“B”はね、“BAD”でもあるし“BEST”でもあるの。私は唄っている時、どちらの“B”にだってなれるわ。それに私だけじゃなく、女だったら誰でも、心に両方の“B”を持っている。――だからよ」
「『女だったら誰でも』……?」
「そう……女なら誰でも、愛する男(ひと)の前では“最高の女(BEST HEART)”になれる……」
言いながら、遥は軽く僕にキスをした。
そして、くりっとした瞳で僕を見上げて、付け加える。
「私も、あなたの前ではいつも“BEST”でいるつもりよ」
「遥……」
その時、遥の腕時計がピピッと鳴った。
「やだ、もう支度しなくちゃ」
「じゃあ、オレ客席で見てるから。頑張ってな」
「んっ! 頑張る!」
手を振ってから、遥は楽屋の扉の向こうに消えた。
僕は、客席へと続く廊下を歩き出す。
歩きながら……また僕は、こんな想いにとらわれる。
(本当に、これでいいのだろうか……?)