雪の雫に濡れた夜

  *

「何だか、物騒な話が広がっているわね」

看板の明かりが消えた《スピカ》店内で、
私は林檎酒の入ったグラスを傾け、口をつけた。


「この街はいつもそうだろ?シュイ、」

カウンタ―越しに、グラスを磨いていた慎(シン)が答える。


「そうね…、噂も、人も、次々と流れ移り行くもの…」

「シュイは流れていくなよ」
 
作業をこなしながら、自然に慎は話す。


「私にはいく所なんてないもの。あるのは《スピカ》で歌う事だけ」

「斗哉の腕の中も、だろ?」
慎は、試す様な、イジワルな笑顔を向けた。


「…ねぇ、慎は斗哉と幼馴染みだよね。…斗哉って、どんな男?」

「は?」
思わず、慎は磨いていたグラスを落としそうになる。


「何言ってんの、お前、つきあってもう1年だろ?
 オレよりよく知ってんじゃねーの?」

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