紅い煙草と鉱石人形
第一章
三日月の夜
「やっと見つけたッ」
西の空に三日月、真夜中の海沿いの倉庫街。
古びたコンテナの上で、紅い煙草から燻る煙を見つけ、露花[つゆか]は安堵のため息をつく。
ずっと走り通しだったので息は上がっていたが、いつもの鍛錬のおかげで、すぐに息は整う。
「紫苑ーッ、いるんでしょ?」
露花は重なるコンテナを見上げ、燻る煙の下、紅い煙草に向かい声をかける。
「ー何の用だ?中央都公安局の警備部長が」
姿見せぬまま、紅い煙草が僅かに動き、低い声が静かに答えた。
「相変わらずね、せっかく裏情報持って来てあげたっていうのに」
紫苑[シオン]が上にいると思われる、コンテナの一郭に背もたれをし、露花は羽織っていた膝丈まである濃紺の外套の釦を外し、涼を求めた。
息は整いつつあるものの、さすがに中央都から外れにあるこの港までは遠く、12月末だというのに露花の額はうっすら汗ばんでいた。
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