世界はミューズ
プロローグ【三年前】
三年前のその日、私は安いメーカーの制服風のセットアップにスプリングコートを羽織って一人駅からとぼとぼと歩いていた。
スカートも短いからペラペラのコートだけではまだ寒くてより一層心細い。
校舎の方から歩いて来る中学の制服姿の女の子とすれ違う度に緊張が高まる。
校門近くの壁に思ったよりずっと小さな白い紙が貼られていた。
野暮ったい寸胴な制服を着た女の子と母親がきゃーと声をあげたところだった。
「おばあちゃんに電話しなきゃ…」
ははん。音楽科に合格した子だな。と思う。偏見的な見解だったけれどどうやら当たりだったようで、親子は音楽科合格者の窓口へと向かって行った。
私はそれを見送り、乾いた唇を舐めた。
チラ、私も顔を上げる。さもちょっと気になったから上げてみた、くらいの軽さで。
0206,0208,0216,…
「……」
縦二列に書かれた四桁の数字を大急ぎで見て短く息を吐いた。駄目だった。
私の受験番号は飛ばされていた。そこに、その間にあったのに…。