世界はミューズ
卒業の為に絵を描かなければいけないのはわかっている。
でも、普段どおりに見繕って簡単に画面を埋めることがなぜかできないのだ。

芸術家にはミューズ(※)が必要だ。

男でも女でもいい。
外見でも中身でも、
少女漫画みたいな、
青春小説みたいな、
ハリウッド映画みたいな、
凄まじい美貌の何か。

(拓?いやいや違う絶対違う)

拓の無邪気な姿がふっと浮かんでふきだしてしまった。
どんぐりみたいなくりくりした目、ひょろひょろの体、指が細くて意外と大きい手。
拓は確かにモテるらしいがそういう話ではない。

しかし、都心の汚いカラオケビルから出て、ビルの間から覗く暮れかけのブルーグレーの空を見上げても、そんなものは微塵も思いつかないのだった。










※ミューズ
(創作意欲を刺激する女性のこと。
詩織は女性に限ってはいませんが)
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