世界はミューズ
拓が振り返って言う。

「河野は才能あるからいいよな。
 ちゃっちゃと描けちゃうもんな」
「やめてよー。そんなことないよ」

口角がきれいに上がっている愛くるしい笑顔だった。
本気で言ってるのか疑わしいと思うが謙遜しておく。
どうみても拓の方が上手かった。
彼の絵を見ると、上手い絵を描かなくては焦る。
そして描きたくもないと投げ出したくなる。
もういやだ。と口の中で何度も呟いて毎日大きなキャンバスの前に座禅を組む気持ちだった。

「学校やめようかな」

ため息のように呟く。
やめたいのは学校というより絵だった。
拓は自分の絵から目を逸らさない。

「駄目だよ。中卒女子なんて大変だぞ。
河野いないとつまんねーし。三年まで頑張ったのに」

私は頑張ったことなんて一度もないよ拓。
拓にはあるのかと驚いた。
それが当たり前なんだろう。
私だけが駄目な生徒なのだ。
才能があると人から言われても、才能を磨けと教師から言われても、自分には何もないのにどうしたらよいのだろう?





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