薔薇色の人生
牧場の危機
優子は街の中心部にある不動産会社に入った。4人の事務のうち、一番若そうな女性が対応にカウンターの所まできた。『高島社長はいらっしゃいます?』応対した事務員に尋ねると応接室に通され、暫く待つと社長の高島が額の汗を拭きながら入ってきた。『いやぁ、お待たせしてすみませんな。今日はいい返事を聞かせてくれるんですかな?』と、いやらしい視線で優子の頭からつま先までを見た。優子は嫌悪感を覚えながらも『先日の牧場売却についてですが、一つ条件を提示させて頂きたいと思いまして』と言うと、ほぅと目を丸くしながらニヤニヤしている。『お宅が所有している希望園の立ち退きの話を恒久的に凍結していただけませんか』と提案すると、高島はわざとらしく『いやぁ、思いがけない話ですなぁ。うちはあんなちっぽけな土地はどうでもいいと思っていたんですよ。そんな条件なら喜んで同意しますよ。では牧場を売買する方向で進めて宜しいですな』と、ニヤついた顔から急に蛇眼の様な冷たさに変わった目で優子を見据えた。1月後に仮契約すると確認して退室し、車に乗り込んで大きなため息を吐きながら゛仕方ねぇよな″と呟いて車のオーディオのボリュームを最大にして車を走らせた。信号待ちの時に学生達がジロジロ見ながら何か話している。『てめぇら見てんじゃねぇよ』悪態をつきながら車を急発進させ、タイヤが悲鳴をあげる。牧場に帰ると強司が外まで出てきて『どこに行ってたんです?心配してたんですよ』『ちょっとな。親父は?』『さっき子牛が生まれたんですよ。今、様子見に牛小屋に行ってます』と嬉しそうに言うと『そうか…。後で話したい事があるから強司も同席してくれ』と牛の出産には興味ない感じで部屋に入ってしまった。何か元気がない。という僕も昨日の事のショックで何も手につかないのだが。やがて陽一が戻ってきて3人が居間に顔を揃えた。優子さんはいきなり『親父、すまない。成人した時に名義変更してもらったこの牧場を売る事にした』といきなりきりだした。陽一は黙って聞いているが、僕は卒倒しそうなくらいビックリした。『な、何を言い出すんですか。僕が住み込む時に話してくれた再建計画は始まったばかりですよ!』