薔薇色の人生
暖かい食卓
牧場が売却されるにあたり、僕は知り合いの動物病院への就職が決まり、主の陽一は街のアパートへ転居してから今後を決めるという。優子さんは一人暮らしをしながら大学に通う事に決まった。あれから一月がたち、不動産屋が仮契約にやってきた。もう決まった事とはいえ寂しい気持ちに変わりはない。あれから池谷さんとは一度だけお会いし、先日の件について謝罪をうけた。彼女を信じきれなかった自分の小ささを思い知り、子供達に対する彼女の思いに感激し改めて惚れ直してしまった。夕食の準備が整い、3人で食べるのもあと僅かだなぁと思うとまたまた寂しさがこみあげてきて涙が出そうになる。この牧場にお世話になって本当に良かった…などと考えながらおかずに箸をのばすと突然『コラ!アタシの好きなメンチカツ食べんじゃねぇ!』優子さんに頭を殴られた。『痛いじゃないですか。それに僕が作ったメンチカツですよ!一人2つです!優子さんはもう2つ食べたじゃないですか…』と抗議してやった。『うるせぇ。アタシは3つ食べんだ。文句あるか?』と柄が悪いお言葉が返ってきた。本当に我が侭で勝手なんだから…と思っても、こんな賑やかな食卓もあと僅かだと思うと、今度は涙が溢れてきた。『そういえば、明日希望園でお鍋のパーティーやるんですって。是非優子さんも来て下さいと言ってましたよ』優子さんは『ふ~ん…。ヒマだから行ってやるか。そのかわり帰りは強司が運転だからな』と勝手に決めてしまった。いったい人の事を何だと思ってるのか。翌日、夕方の6時に招かれていたが手伝う事もあると思い、僕と優子さんは車で希望園に向かった。車から降りると子供達が駆け寄って抱きついてきた。僕は子供達に一応人気があるようだが、助手席から優子さんが降りると子供達は2、3歩後ずさり、中には泣き出す子もいる始末。『なぜ優子さんを見て怖がるんですかね。子供に何かしたんですか?』と訊くと『ん?知らねぇ。あまりに美人なんでビックリしたんじゃん?』とソッポを向いて口笛を吹いている。