薔薇色の人生
無謀な作戦
急いで牧場に戻ると、予想に反してご機嫌な優子さんが鼻歌を歌いながら食器を洗っていた。今まで見た事のない光景に僕の思考力が混乱し、本能が警鐘を鳴らしている。僕に気付いて『おう!お帰り~。強司ちゃん』つ、強司ちゃん?!ますます混乱し完全に固まってしまった。『何をつっ立ってんの?朝ごはん作ったから食べなよ、ほらぁ』はっきり言って気持ち悪い。椅子に座らされ、目の前にある皿には…(?)。何かわからない黒い塊があり、横には缶に入ったままのツナ缶がある。これをどうやって食べるのだろうか。そんな僕の疑問は眼中ないと言わんばかりに『食べながら聞いてくれよ。あっ!おかわりもあるからさ。あのさ、昨日話した(優子さんをコケにした狸狩り計画)の事だけどさ、すっげぇ事思いついたんだ。アタシって天才?!』と、作戦名まで決めて一人で興奮している。あまり聞きたくないが聞き手の気持ちなどどうでもいいらしく、マシンガンの様に喋りだした。『まずは暴力団の関連会社で働くんだよ。んで、結構信頼されたらだんだんと偉くなるだろ?そしたら悪の秘密を簡単にゲットできるんだ。それを警察にチクッてやればみんな逮捕されて一件落着だ』バカらしくて話もしたくない気持ちだ。『そうかそうか、感激して言葉も出ないか、うんうん。でな、潜入するのは強司と決まった。今から洋服屋に行ってその筋らしい服を買ってきな。一人で行けるだろ?』何を言ってるんだ?!この人は!だいたい本契約まであと6日しかないのに…。絶望感が僕を支配し、とりあえずベッドで横になろうと決めて席を立った時、渉兄さんが入ってきた。『ん?どうした?顔色が悪いぞ。何かあったか?』僕が説明するまでもなく、優子さんのマシンガントークが炸裂した。さすがに渉兄さんも苦い顔をしてうつ向いている。『なるほど…。ちょっと今の強司じゃ無理があるな』さすが兄さんだ。昔から僕を助けてくれる頼り甲斐がある兄さんである。兄さんは続けて『こいつがどんな洋服着たってただの真面目な小僧にしか見えない。やるなら髪型を変えて、アクセサリーも必要だ。そうだ、タトゥーも入れないとまずいな…』な、な、何を言ってるんだ?この人は!抗議しようにも口がパクパクするだけで声が出ない。
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