薔薇色の人生
優しいお兄ちゃん
『おはよ!童貞君!』庭の物干し竿に洗濯物を干してしる僕の背後から優子さんの大きな声がした。振り向くと、居間の中で頭にカーラーを巻き下着姿の優子さんがバタバタ動きまわっている。僕は慌てて目をそらし『優子さん!家の中を下着で歩くのはやめて下さいって、いつも言ってるじゃないですか!』優子さんは僕の言葉を無視して『よぅ、この辺に置いてあったファンデーション知らね?』と、その辺をゴソゴソと掻きまわしながら手当たり次第に放り投げている。せっかく今朝キレイに整頓したばかりなのにと悲しくなりながら『テレビの横の引き出しの中に入ってますよ』優子さんは『おぉ!あったあった。しかし強司がいると何がどこにあるかすぐにわかるから便利だよなぁ。今日はよ、先輩とデートなんだよ。お前も早く何とかっちゅう施設の彼女をモノにしろよな。じゃあな!』とバタバタしながら居間を出て行った。確かにこの半年の間、池谷さんとは施設でのお話以上の進展はない。ここらで勇気を出してデートに誘ってみてもいいかもしれない。翌朝、いつもの様に卵を届け池谷さんと話をしていると、まるで神様が後押ししているかの様に映画の話題になった。僕は勇気を振り絞って『あ、あのですね…良かったら今度の日曜に街まで行ってですね…その…つまり…』と言葉が出なくなってしまった。池谷さんはキョトンとして僕を見つめている。やはりダメだ…。そんな目で見られなら余計に言えない。池谷さんは手話で《恥ずかしい話ですか?私が下を向いているのでおっしゃって下さい》と、助け舟を出してくれた。なんて優しい人なのだろうと感激のあまり涙があふれそうになった。ここで言わなきゃ男が廃る!と、ばかりに気合を入れ『こ、こ、今度の日曜に映画に行きましょう!』と大声で怒鳴ってしまった。はぁ…なんで普通に言えないんだろう。池谷さんの顔をチラッと見ると、あのエンジェルスマイルで《行きたいです。でもみんなに聞いてみないと…。予定があるかもしれないですしね』と、なにやら話が怪しい方向にいきかけている。《みんな喜ぶと思います。鬼塚さんには毎朝卵を届けてもらったり、子供達に気を配って頂いて本当に感謝しています》と頭を下げて感激している。今日はお互いに感激しっぱなしである。僕も調子にのって『では迷子にならない様に旗でも作りますか!希望園御一行様なんて』
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