薔薇色の人生
ジャジャ馬脱走
車は街の手前の分岐路を入り、山の方角へ進んだ。後ろを見るとヘッドライトが見えないくらい引き離しているらしい。僕はホッと一安心しシートに背中を預けて目を閉じた。渉兄さんは『奴らが探している間に時間稼ぎができる。まずは優子ちゃんのマンションから彼女を引き取る。それから先は奴らに一泡ふかせる行動にでる』僕は優子さんの無事な姿が見られると思うと胸の高なりを覚えた。100kmを越える速さのスカイラインがとても遅く感じられた。その頃、優子はというと…『あのさ、あんた名前何ていうの?』身体のロープを外してもらい、自由の身になり机に脚を乗せて偉そうに優子が尋ねた。『先ほど自己紹介した通り、地獄の番人です。名前などありません』つまらないという顔をして優子は窓の外に目をやった。いつの間にか雨が降り出した様だ。とにかく早く脱出して強司に連絡しなくては…。焦る気持ちを隠して思案するうちに頭の中で妙案が浮かんだ。《やっぱアタシって天才かも》とほくそえみ、男に流し目をやり『ねぇ…シャワーを浴びたいんだけど。ダメかしら…』先ほどの偉そうな態度から一変し、どう考えても不自然な色っぽい?話し方をしている。男は優子を呆然と見ていて、とても色仕掛けが通じたとは思えない。やばい、バレたか!と、心中で舌打ちをし頭をフル回転させた。とっさに『あっ!その前に腹が減りましたわ。なんか出前をとって欲しいですねぇ』焦りでまともな言葉が出ない。『何を食べます?』男は笑顔に戻り、ゆっくりと話す。その話し方は妙に相手を安心させるなぁと優子は感心した。いや、相手は悪人だ。騙されてはイカンと自分に言いきかせ『そうねぇ…。カツ丼なんて好みだわ。できれば大盛りで…ね』と、ウインクしてみせた。男は笑いを押さえながらサイドボードから出前メニューを取り出して、カツ丼の大盛りともりそばを注文した。まさにここだ!必ず氏名と住所を聴きのがすまいと耳を傾ける。しかし、常連らしく氏名も告げずに電話を切ってしまった。男は振り向き『悪い事は言いません。時が来るまで大人しくしていて下さい。逃げようにもここはマンションの5階です。手段はありません』優子は作り笑顔で『そんな事は全然考えていませんわ。出前の方に助けを求めるなんて…!』思わず両手で口を押さえた。