薔薇色の人生
薔薇色の人生
優子さんと木村の間に割って入ろうとした真田と僕を含めて4人が固まった様に動かなかった。赤い血だけが4人の間から床にボタボタと垂れている。全ての力が抜けた様に木村が、そして真田が身体を外した。そしてナイフを腹に突き立てたまま、僕は膝から崩れ落ちた。真田の脚が空を切り木村の側頭部に命中し、木村は飛ばされて動かなくなった。優子さんが泣きながら僕に何か叫んでいるが何を言っているのかよく聞き取れない。身体を揺する仕草も、顔を口の様に叫ぶ唇もスローモーションの様だ。それよりもひどく眠いな…。しかし優子さんは相変わらず騒々しいなぁ。今度、池谷さんの爪のアカを頂戴して飲ませてみようかな…などと考えていると思わず笑いが出てきて、そして眠る様に意識は闇に消えた。その後…木村や坂口は傷害と監禁で逮捕され、牧場と希望園の売却の話は白紙に戻った。『痛いじゃないですか!ベッドに腰掛けないで下さいよ!まったくもう…』ブツブツ言う僕に『大の男がいつまでも怪我人ヅラしてんじゃねぇよ。早く退院しないとウチの動物達が餓死しちまうじゃんか』と、相変わらず口の悪い優子さんがニコニコしながらベッドに座り身体を上下に揺すっている。そして急に改まって『あの時…アタシをかばってくれてありがとう…。もし強司がいなければアタシは死んでいたかもしれない…』下を向いて涙声で詰まりながらも懸命に話している。『もう泣かないで下さい。優子さんには涙は似合わないですから』優子さんは顔を朱に染め声を震わせて『あのさ…強司はアタシの事どう思う?』と、濡れた瞳で見つめてくる。この展開は何だろう。僕は何と答えていいかわからず暫く黙ってしまった。すると『なんだよ、何マジになってんだよ、バ~カ』と言って僕の頬を軽く叩いた。『さ、アタシは帰るよ。強司がいないからやる事が沢山あって大変だからよ。じゃあな』と言い部屋を出て行ってしまった。そんな優子さんの態度が嬉しい様な、少し残念な様な気がしたというのが本音である。でも、これでいいと思う。これが僕と優子さんの関係の本来の姿であり、これからも良き友人として変わらない付き合いをしていくだろうと思う。