薔薇色の人生
ジャジャ馬の決断
優子は一人で車を運転し希望園の入口に乗りいれた。まだ朝の5時だ。園は静まりかえっていて、まだ誰も起きていない様だった。車を降りて扉をノックして暫く待つと中から中学生くらいの女の子が出てきて『どちら様ですか?』と怪訝な表情で応対した。優子は『池谷さんはいるかい?あたしは山の牧場の娘の佐原優子ってもんだけど』女の子はアッという顔をして『牧場って…強司兄ちゃんの?』優子が頷くと『昨日は約束の場所に行けなくて申し訳ないと、施設長が言ってました』と拙い言葉で代弁した。本人は留守だという。事情を教えてほしいと頼んだが下を向いてしまって何も言わない。『お嬢ちゃんに訊くのはどうかと思うけど、昨日来なかった理由を知っているなら教えてほしいんだ』女の子は『理由は聞いてますが言えません。何も言わない様にという事なので…』優子は軽いイラだちを覚えながら『わかった。もう訊かないよ。ただ、池谷さんに伝言を頼めるかな』というと女の子は頷き、自分はここの子供の年長者の美希と名乗った。『強司はな、今回の事でかなり傷ついている。どんな理由があれ、きちんと説明と謝罪をしてくれと伝えてほしい』美希は再び頷き頭を下げた。優子は持参した卵を渡して園を後にしようとした時、奥から池谷が出てきた。優子は頭に血がのぼり『留守じゃねぇのかよ!嘘ばっかつきやがって…。おい!昨日の件を説明しろ!』大声で怒鳴りだすと止まらない。子供達が部屋から出てこようとするのを美希が部屋に戻る様にいいつけている。池谷は左手で広間の方をさして中に入る様に促した。優子は顔を真っ赤にしながらドカドカとあがり込んだ。優子が手話ができないため、美希が池谷の言葉を通訳する。《鬼塚さんには本当に申し訳ない事をしました。言い訳する気はありませんが、うちの子がクラブ活動中に問題をおこしてしまって…やはり子供達の問題を放っておくわけにはいきません。連絡しようと思って牧場に電話したのですが繋がらなくて…。結果、子供を優先させていただきました》池谷は一呼吸おいて《私もすごく楽しみにしていました。子供達も毎日指折り数えていたんです。しかし、ここにいる子は皆家族なんです。家族が一人でも困っている時に助けないと、私は母ではなくなります。わかって下さい》池谷は目に涙をうかべながら私を見た。