焼き芋焼けた
 私が彼等の後を追ったのは二三歩だけで、直ぐに足を止め、彼女の方へ振り返りました。今は彼等を追うより、彼女の助けになることの方が急を要すると考えたからです。しかし、今にも泣き出しそうに立ち尽くす彼女とその足下の水溜まりを見ると、何と話掛ければ良いのか分からなくなり、私も彼女の姿を写したようにやはりその場に立ち尽くしてしまったのです。
「庄司さん、あの……早く帰った方が良いよ」
 暫くの後、漸く絞り出した言葉は酷くぶっきら棒で、自分でも驚くほど優しさの感じないものになってしまいました。
 彼女は私には一切反応せず、俯き加減のまま、自宅への道をとぼとぼと歩き出しました。
 私はこんなときどうするべきかをあれこれ考えていましたが、結局何の考えも浮かばず、彼女の数十メートル後ろをただ黙って見守りながら付いて行くのが精一杯でした。
 彼女の家は私の家より学校寄りだったため、彼女が自宅へたどり着くのを見届けました。暫くの間、彼女が入って行った白い壁の立派な一軒家を眺めながら、どんな言葉を掛けるべきだったのかを考えていましたが、その答えは結局出ることはありませんでした。ただ、これから私のすべきことだけは確信していました。
 しかしその行動は、私と彼女の間に深い溝を作ることになってしまうのです。
     
 翌日は前日にも増して残暑が厳しく、教室の中はまだ九時前だと言うのに酷く蒸されていました。
「昨日の帰りに、宮崎君と福地君が庄司さんを虐めていました」
 クラスで毎日行われる朝の会と銘打たれたホームルームで、私は発言をしました。
 加害者である二人の男子生徒は私を厳しい目で睨み付け、庄司さんは不安気な表情でこちらを見ていました。時折気休め程度に吹く風に揺らめく教室のカーテンが、窓際の席に座る彼女の不安な心模様と微かに同調して見えました。
 私は先生に、そしてクラスメイト全員に向けて、前日の出来事についての一部始終を話しました。そして、二度と同じようなことをしないよう訴え掛けたのです。
 私の話しの途中、庄司さんが机に蹲り泣き始めました。
 私は彼女が昨日の出来事を、また、そのとき浴びせられた言葉を思い出し、悔しさが込み上げて来たのだと思っていました。しかし彼女の涙の原因は、私の思う所とは全く別のところにあったのです。
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