焼き芋焼けた
 君のその言葉は、私には俄かに信じることができませんでした。
 勿論気分が高揚したのは事実でしたし、堪え切れずだらしなく顔を綻ばせさえしてしまいましたが、その反面、私の行いやそこから垣間見た人柄に好意を抱いてくれたにしろ、それ以上の感情に繋がる等とは容易には理解できなかったのです。それは言うまでもなく、それまで私の人生にはあり得なかった出来事だったからです。
 喜悦と疑心は私の中で押し問答を繰り返していましたが、その疑心が溶けて行くまでに長い時間は必要としませんでした。
 それは昼間や、先程までの媚薬的効果とは違い、君の気恥ずかしさが手伝って遠慮がちながら真摯な言葉の一つ一つが、その言葉を発する良く通る声が、そして、アルコールのせいか告白のせいかは分かりませんでしたが、顔中を赤らめて終始はにかむその表情が、私に安心感を与え疑心を取り払うのには十分過ぎるものだったからです。
 私達はお互いについて、色々なことを話しました。それにより私は、君と言う人間を幾らか知ることができました。
 例えばそれは君が私より二つ歳上で(私の誕生日は十一月ですから、その時点では三つですが)、五月の誕生日を迎え二十一歳になったことであったり、実家は栃木県の佐野市だと言うことでした。
 君は高校を出た後、実家から東京にあるフラワーアレンジの専門学校へ通い、卒業と同時に就職が決まった神奈川県での一人暮らしを始めたと言いました。
 仕事は花屋。同じ専門学校を出た多くの友人達は、ブライダル関係の職業に進んだそうですが、君は初めから花屋になることを目標としてその学校に通ったのだそうです。
 勤め先は大きな商業施設内に店があり、シフト制。遅番のシフトに入った日に勤めを終えてから私のアルバイト先に立ち寄ると、度々私と顔を合わせるのだそうです。
    
 私は、君がいつも夜の十時過ぎに来店する理由と、今朝のお礼の品が仙人掌であった理由を理解し、一人納得したのでした。
 そして、もう一つ。それは君の明るく和やかな笑顔と、雰囲気の理由についてもです。勿論生まれ持ったものでもあるのでしょうが、その特徴は日頃から草花と言う癒しの存在と接することで、魅力的に洗練されて行ったのでしょう。
 なぜそう思ったのか。それは、私自身にも経験があったからです。
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