焼き芋焼けた
「それなら、一緒に帰りましょう。あっ、良かったら今日も夕食一緒に食べませんか?」
 ホームに突入して来る電車が鳴らす律動と、流れるアナウンスの音量の中でも伝わるよう、君の口の動きは些か大袈裟なほどで、発する声も平時より大きくなっていました。
「家に電話して聞いてみますけど、多分大丈夫です」
 私は首肯と共に、最早定例とも言えるぶっきら棒な返事で誘いに応じながら、内心では再び自分の不甲斐なさを痛感していました。それは、私が女々しく過ごした四時間をよそに、女性である君がいとも簡単に私に声を掛け、さらには食事にまで誘ってくれたことに因るものです。
 思えばいつでもそうでした。
 初めて声を掛けたのも、食事に誘ったのも君でした。名前を名乗ったのも君からでしたし、乾杯の音頭も君がとりました。その後、私達の仲は徐々にではありましたが、確実に深まって行きましたが、連絡先を交換するときも、デートと呼べるのかは分かりませんが初めて二人で映画を見に行ったときも、いつも君が発案し先導してくれました。
 ですから、後に私は決意することになるのです。告白だけは、正式な交際の申し込みだけは、何としても私の口からするのだと。
 しかし、私がその想いを実行に移すまで、実に半年以上もの月日を要することになるのです。
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