焼き芋焼けた
決意
 メリーゴーラウンドのように緩やかに流れゆく筈の季節は、時が経ち振り返ってみれば、まるでジェットコースターのような速度で過ぎ去ったように感じるものです。私にしてみれば君と出会ってからの日々では、その感覚はさらに顕著になったようでした。
 私が君の職場まで足を運んだ日。君の要望を受け、私達は連絡先を交換しました。
 大学の入学と同時に、母親が買い与えてくれた携帯電話。初めて使用する赤外線通信で、君の電話番号とメールアドレスを受け取り、また私も返しました。
 初めて二人で出掛けたのは、夏真っ盛りの八月一日。君の勤め先である、あの商業施設でした。
 料金の安くなる日に託ける格好で君が誘ってくれた映画は、私の好きな感動的であるらしい作品でした。いつもなら間違いなく涙を流すところなのですが終始君ばかりが気になり、私の分までとばかりに号泣する君の横顔を、映画の主演女優に負けないほどに視界に捉えました。
 その夏は、花火大会にも出掛けました。君の浴衣姿が見れるかと期待しましたが、君は早番の勤めが終わってからやって来たため、普段通りの清楚な私服でした。
「来年は、浴衣を着たいなぁ」
 君が呟いたその言葉に、翌年に向けた私の期待は高まったのでした。
    
 秋になり陽射しが優しくなると、宛てもなく街中を歩くことが増えました。私達にとって歩くことは苦ではなく、一日に何時間も散歩をしながら、時折見掛ける草花について君が細やかな講義を催してくれたり、疲れたら喫茶店での珈琲や、時には川沿いの土手や公園のベンチに腰掛けながら缶ジュースを飲み、足を休めながら話をするのです。
 初めて手を繋いで歩いたのも、この頃でした。街中の銀杏並木に沿って歩いていたとき、私の何気なく垂らしていた左手を、君の白く柔らかい右手が握ったのです。
 驚きのあまり君の顔を凝視してしまった私に対し、「冷え性だから冷たいかな?」と照れ笑いを浮かべた君。私はと言えば首を横に激しく振り、その後は満足に君の顔を見ることもできませんでした。君も私に併せるように口をつぐみ、私達は心地よい沈黙の中で幸福感と羞恥心を抱き、銀杏の落葉で黄色く染まった歩道を歩き続けました。
 日々感じる幸せは私の生活をかつてないほど充実させ、当たり前に過ごしてきたありきたりな日常を煌びやかに輝かせていました。
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