焼き芋焼けた
 そんな日々の中、いつの間にか私に対する君の敬語はなくなり、一方で私の君に対する敬語は続いていました。
「大樹君は、ずっと敬語なんだね。でも、その方が君らしいね」
 君が不意に言ったその言葉は、いつの日にかはと思っていた私の思惑を表に出し辛い雰囲気を作ってしまいました。
 この言葉使いが私達の関係の深まりを遅延させていたのは、少なからず事実だったように感じますが、私はそれで構いませんでした。いえ、それ以上先のことなど、考えてさえいませんでした。少なくとも、その年の私の誕生日を迎えるまでは。
    
 十一月初旬。私の十九回目の誕生日を一週間後に控えた、風の強い日のことでした。
 いつものように散歩をしていた私達でしたが、日も落ちかけ冬の訪れを予感させる冷たい空気の吹き付けを受け、偶々通りに見付けたチェーンのファミリーレストランで暖を取ることにしました。客入りが疎らなのを良いことに、二人ともドリンクバーの注文だけで随分と腰を据えてしまいました。
 君からの問い掛けは、私が三杯目の珈琲を注いで席に戻った直後でした。
「来週、大樹君の誕生日だよね? 何か予定はあるの?」
「はい。家で母親が祝ってくれます。毎年色々と用意してくれるんです」
「そっかぁ……」
 君はあからさまに消沈の面持ちでしたが、何やら数秒間考え込んだ後に今度は満面の笑みを浮かべました。それはまるで萎びていた朝顔が朝日を浴びて明るく花開くように、君の心の明暗を如実に物語っていました。
「私もお邪魔してもいいかな? 一緒にお祝いさせて。大樹君のお母さんにも会ってみたいし」
 思わぬ提案に一瞬たじろぎましたが、その笑顔を前に固辞するすべが私にある筈もなく、「勿論です」と、母親の了解も取らずに承諾したのでした。
    
 その日の夜、私はその旨を母親に話しました。本来は帰宅して直ぐに話すつもりでいたのですが、中々切り出すことができず、夕食を済ませた後洗い物をする母親の背中に向かって、漸く話を始めたのです。
 君の存在や私達の関係、それから夕方にした約束を酷く端的に話しました。そして恐る恐る、君を招待することについての了解を求めました。
 遠慮がちに話す私に対し、水を流したまま振り返った母親は顔一杯に歓喜を表し、元々大きく丸い目をさらに見開きながら言いました。
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