焼き芋焼けた
 しかし年齢を重ね学年を増すに連れ、同級生達の私に対する見方は悪い方向へ変化して行ったのです。
 彼等は問題行動に対し注意する私を「煩わしい奴」と言うようになり、先生に問題提起する私に「告げ口をするな」と攻撃的な態度を取るようになりました。頼りになる同級生だった筈の私は、いつの間にか彼等にとって目障りな存在に成り下がっていたのです。
 私は自分が正しい行動を取っていると自負していましたから、彼等の目や評判を気にして信念を曲げることはしませんでした。大方の同級生達に疎ましく思われようと、秩序から外れた行動を無視することはできなかったのです。
   
 あれは四年生のとき、夏休みが開けたばかりの残暑が厳しい日のことでした。
 私は放課後に先生から頼まれた用事を済ませ、他の生徒より少し遅れて帰路に着いたのです。自宅へと続く多摩川沿いの道を額に汗しながら歩いていると、道の先に同級生の姿を見留めました。
 何やら騒ぎ立てている男子生徒が二人。その二人の前には、下を向いたまま立ち尽くす女子生徒の姿が確認できました。視力の低い私ですから、その女子生徒が私が密かに想いを寄せていた庄司さんだと気付いたのは、彼女達にかなり近くまで迫ってからでした。
 彼女とは三年生に上がるときのクラス替えで、初めて同じクラスになりました。一学年に三クラスと、取り分け大きな学校ではありませんでしたから顔と名前位は知っていましたが、直接話をしたことはありませんでした。同じクラスになった私達は供に学級委員を務めることになり、その仕事を媒介に何かと話をする機会が多くなりました。
 彼女の細い目や張り出した顎の間接は、決して器量が良いとは言えませんでしたが、接する度に感じる彼女の真面目な人柄に、いつしか好意を抱くようになっていたのです。私の初恋でした。
「こいつ四年生にもなって、お漏らししてるよ。汚ねぇ」
 男子生徒が彼女を罵倒する声を聞き彼女の足下に視線を移すと、彼女の黒い膝丈のスカートは所々濡れており、そこから伸びる両足を伝った小便が、熱くなったアスファルトに小さな水溜まりを作っていました。
「まるお、告げ口すんじゃねえぞ!」
 私がこの状況を漸く把握し二人の男子生徒に歩み寄ろうとするが早いか、彼等は煩わしい奴に見付かったとばかりに、そんな捨て台詞を残し、逃げるように立ち去りました。
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