君待駅
空いている席に座った私の頭の中を占めていたのは…さっきの男の子のこと。


あのちょっと低くて優しい声。私の頭を撫でた大きな手。
自分でも説明することができないくらいに鮮明に、その感触が残ってる。


顔を正面から見た時間なんて、きっと10秒くらい。
そのくらいしか、彼はこっちを見てくれはしなかったのに…


それでも…彼の言葉は温かくて、彼が触れた部分はなんだか妙に熱くて…。



「ちゃんと…お礼、言いたかったな…。」



ぽつんと一人でそう呟いた。


名前も知らない。学校も知らない。
制服を着ていたけど、この辺の高校はほとんど学ランだから区別がつかない。
今私が羽織っているジャージも、市販のもので、学校名とかは書かれていない。

唯一分かるのは…




「あの駅から乗ってきたってこと…だけ…。」


残された情報はたったそれだけ。
…本当に、たった、それだけ。


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